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  東京手描き友禅の達人/太田淑江
東京手描き友禅の達人/太田淑江
 

 

着物を着ること。それは、自然と溶け込む、という行為でもある。美しい四季を友禅で表現していきたい、という太田さんの言葉を聞いたとき、着物は、「身にまとうもの」という枠を飛び越えて、体で美を表現する道具の一つなのかもしれない、と感じた。


■友禅との出会い
子供の頃からお茶を習っていた太田さんは、焼き物や書道など、日本の芸術に、幅広く関心があった。そんな中、たまたま訪れた友禅の展示会で、主催者が弟子をとると聞き、以前から興味があった染物の手ほどきを受けることになった。糸目友禅の工程は、13から15にまでおよぶ。そのすべての工程を基礎から学ぶうちに、友禅にのめりこんでしまった。糸目友禅だけでなく、蝋友禅の技術も習得した。糸目が、平坦で、柔らかい作風なのに比べて、蝋は、より立体的で、絵画的な表現が可能だ。

 
糸目友禅    蝉友禅
【糸目友禅】 【蝉友禅】
蝋友禅のほうが、手間がかかる分、表現に厚みがある。
■表現は無限大
誰も目を向けない花の、微妙な葉の重なり具合や、人間の顔の動き。友禅を始めてから、見るものすべてに関心を持つようになった。見るだけではなく、図案を描くために、日頃から、デッサンも欠かさないようにしている。細かい部分に目がいくようになってから、観察力がついたそうだ。
着物の柄というと、「花」が一般的だが、太田さんにとっては、目にするものすべてが表現の対象となる。
「伝統を受け継ぐだけでなく、同じ技術を使って、現代を表現してみたい。」
現代の街は、ビルと自然が混在する、アンバランスさが魅力だと、太田さんは言う。しかし、ビルを友禅で表現して、さらに着物を作るとなると、とても難しい。見慣れない柄に、抵抗もあるだろう。しかし、太田さんの、表現への欲望は、尽きない。伝統の技を使って、現代を染める、という挑戦が、表現の幅を広げてくれるのだから。


■苦労すること
友禅染は、一つの作品が出来るまで、一ヶ月から二ヶ月かかる。楽しくないと、出来ない仕事である。しかし、根気がいる作業、というのは、周知の事実だと思うが、他にも、驚くような苦労があった。それは、水である。きれいな水でないと、思うような色が出ない。水道水はカルキが強すぎるため、一度沸かして、冷まさないと使えない。ミネラルウォーターを使うこともあるそうだ。このことから、色が、「生き物」であることがわかる。
作業をする際の温度も重要だ。一番良い時期は、冬から春にかけて。夏は、乾燥してしまうため、適していない。一方、蝋友禅は、蝋が固まってしまう冬よりも、夏のほうが、作業しやすいそうだ。しかし、注文は、季節を選んでくれない。良い時期にだけ、仕事をするわけにはいかないのだ。エアコンで、温度調整しながら、環境を作り出す。美しい四季も、作業をする上では、苦労の一つになるようだ。


■自分に何が似合うか
最近では、着物を着る機会が、減ってしまった。成人式のニュースを見ていて、いつも思うのだが、派手な着物が多く、「粋な着こなし」とは、程遠い。
「若い人は、柔らかく、優しい色の着物が似合うんです。サーモンピンクや、お日様みたいな黄色が良い。もっと、きれいに着て欲しいですね。」
洋服のデザイナーが作った着物が流行っているが、伝統的な柄のほうが、美しく見せることが出来るそうだ。年配の方も、落ち着いた色のほうが、大人の雰囲気が出て、洒落た着こなしになる。着物は、洋服のように、好きな色や柄で選ぶのではなく、「自分に何が似合うか」を見極めることが肝心だ。太田さんが注文を受ける際も、同じものは絶対に作らないそうだ。本人を見て、その人に何が似合うか、どうすれば、一番美しく見えるかを考えながら、図案を作る。出来上がって、お客さんが袖を通す時が、一番の楽しみだ、と、目を輝かせながら語る太田さん。着物は、それだけでは、完成形ではないのだ。着た時に、初めて作品として出来上がる。桜の着物を着たお孫さんの写真を見せていただいたが、まるで、咲き乱れる桜の中に、立っているようだった。着物を「着ている」のではなく、着物と、「溶け合っている」。洒落た着こなしを見ると、着物選びが、いかに大事か、ということがよくわかる。


■技術を後世に残していくために
友禅を広めるために、リサイクルセンターで、教室を開いている。ボランティアで、学校や児童館で教えることもあるそうだ。若い人は、感性が優れているし、力もある。友禅を仕事にするのは、難しいことで、職人の数も減っているが、せっかく習った技術を若い世代に残していきたい、と、太田さんは考える。友禅に触れる機会を作り、その存在を知ってほしい。教室では、ハンカチやストールなど、身近なものから染めていく。ジーンズを使った作品を作る人もいるそうだ。まずは、始めることが大事。伝統的な技術は、後々、学べばいい。
「技術を学びたい人がいれば、是非お教えしたいと思います。江戸時代から続く友禅を絶やすことなく、次代へつないでいきたいです。才能は、眠っているものなので、どなたでも出来ます。興味があれば、門をたたいてほしいですね。」


■人生を映し出す友禅
「私にとって、友禅は、「私を表現する場」です。私の人生かな。」
作品には、今の自分が反映される。他の人にはない「私自身」。だから、作り続ける。
「作品を作ってるときが、本当に楽しいんです。」
友禅には、作り手の魂が込められている。そして、着物が完成したとき、着る側の思いが込められていく。いくつもの世代に渡って受け継がれた着物には、人生というドラマが詰まっているのかもしれない。
取材・文 中嶋真希
 
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太田淑江(おおた・よしえ)

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