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  ガラス工芸の達人/安藤和夫 ガラス工芸の達人/安藤和夫  


■きっかけ
「きっかけ?きっかけというのは特にないなぁ。」
ガラス工芸を始めるきっかけに対する質問に安藤和夫氏はこう答えた。
小さい頃、勉強は得意だったが特に絵が好きというわけではなかった。大学は経済学部。現在はプラスチック関係の仕事をしている。今の仕事は大学卒業時より変わっていない。30代で仕事に対する最初の飽きがきた。中卸のようなことをやっていて、受注があればそれを卸す、という作業に楽しみを見つけられなかった。儲かれば楽しいのは楽しいのだけど、仕事自体でいえば、僕じゃなくても誰でもできるんじゃないかとの思いがあった。そこからしばらくの間、模索があった。さまざまなことにトライし、ようやく、ガラス工芸に出会った。ガラス工芸なら自分を少しはあらわせるような気がしたという。

■作品
初期の作品は木や花などの植物が多い。モチーフはどちらから選ぶのですか?の問いには「特にどこからというものはないですね。適当に。」ファイルにある作品群を拝見したが、森や星座、オーロラや少女、ピラミッドや魚と多種多様、種々雑多。どの時代でもない、どの国でもない、名もない森や山や海の中に、名もない鳥や魚や少女がたたずんでいる、という印象。しかしもう少し正確にいうと、一枚のガラス板の中では、すべての要素が均等に存在している。「月の昇った森に飛ぶ鳥」の絵は、「鳥の飛ぶ森に昇る月」でもあり、「鳥と月を迎える森」でもあり、まるで全てが主人公であるかのように見える。
作品
突然立ち上がり「これはね、近くで見てもあんまり面白くないんですよ。」とすばやく3、4歩離れ、「花と少女」のある作品をこちらに向けてくれた。近くで見るのと光がまったく違って見える。「あっちがいい。」今度はそこよりも光が強く真上から当たる場所を選んだ。最初に離れたときと同じような距離感で後についていき、立ち止まったところで止まった。「花と少女」が虹のような光彩を反射させる。「買った人にはそれぞれ自由に楽しんで欲しいが。」という前置きに続き。光についていうなら、好みだとは思うが、太陽光はぎらぎらしすぎて品がなくて、星や月だと弱すぎる。暗闇の中、ピンスポットのようにハロゲン燈を当てて作品を浮かび上がらせるのがもっともいいのだそう。微妙な角度の変化で、繊細にプリズムの光が彩りあざやかに変化していくこの技術は独自に研究開発したというもの。それだけにこの技術には相当の自信があるし、他にどこ探してもない、と自負している。だから作品はこのプリズムをより生かされる、またプリズムにふさわしいデザインを探求するように変化する。「うまい絵なら絵描きさんに描かせておけばいいことだし、抽象画なんてこの技術は向いてない。」好きな絵やデザインを選んでるのではなく、技術が作品を選ばせるということなのかもしれない。


■試行錯誤
作品の変化をファイルで見ているときに、あるひとつの傾向があるのに気づいた。それは、木だけを追っていくとはじめはいっぽんなのだが、それは多くなり、記号化したりしながら細分化していくのだ。全てが増加するという変化ではないので、ひとつのモノだけを追いかけていくと、生き物の細胞分裂のように、ひとつの細胞から始まって、最終的にどんな生き物になるのかとわくわくしてくる。しかし、最後にはその命が消えてしまうので、ちょっと寂しいですね?と言うと、「いや、これはこっちに生かされてるんですよ。」と先ほどの「花と少女」を差し出した。どこに木があるのだ?と考えていると、「花が整列してるでしょう?それは木が多くなり森を造っていく流れの中で、整列しているほうがいいかなと思ったんですよ。木だってもともとは一枚の葉っぱだったんですよ。」整列したものや幾何学的な模様が植物や生物などと溶け合っているのにも、これでうなづけた。もっとも最近のものに「花と少女」以外にオーロラをモチーフにしたものがあった。それらの作品にもこれまでの試行錯誤が息づいているようで、先ほどの「ちょっと寂しい」なんていうのはまったく場違いに思えてならなかった。


■作品作りのモチベーション・・・
休日は表参道などに出かけ、無名な作家の作品を見ては買ってみたり、いろんな事を考えたりしているという。作品の出来はもちろん、作品の値段を見て、時給1000円もいってないだろう、とか、この間来たときは同じ作品がもうちょっと安かったのに、顔が少し売れたのかな?とその辺はさすが元経済学部といったところだ。やっぱり売れたいですか?と聞くと「売れたいねえ。過去の作品に結構費やしてるって言うのもあるけど、あと20年はやってくつもりだから、最低でもこれからつくっていくくらいは欲しい。」と謙虚。初期の頃に自分の作品をとあるギャラリーに委託販売のような形で預け、いくらの値段をつけてもいいと言ったことがあった。値段をつけられて高いとも低いともなく不思議な気持ちでいたところギャラリーの女性から面白いこと聞いた。それは無名の作家の作品を買うのは買う側にとってもすごく度胸のいることだということ。「ゴッホは日本人ならお金があればいくらでもだすでしょう?」という氏の発言には、技術料やデザイン料は、自分は含められない、という意味がこめられる。なぜなら、自分の作品をアートでなくクラフトという位置づけで、その二つに線引きをしているからだそうだ。
「つくって楽しい、見て楽しい、売って楽しい。」この3つの楽しみが安藤氏が作品作りのモチベーションであり喜び。ひとつひとつの行為にそれぞれ違う楽しみを抱え込んだ安藤氏のこれからはというと、最新作の「花と少女」や「オーロラ」のすぐ先にある。「花と少女」は少し縦長になり、「オーロラ」はよりなめらかに向かう流れの中にある。ひとつひとつの楽しみを繰り返し、しかも新しく変化していく様子に「カノン」という音楽の楽曲形式を私は重ねた。ひとつの旋律を何度も繰り返し模倣していく形式なのだが、「きっかけ」が明確にはない、という氏の変化し続ける作品とその楽しみ方はその「カノン」を聴くようである。終わりは始まりで現在は「終わり」であり「始まり」なのではないか。


奥さんが一番好きな作品は何ですか?と聞くと「全部好きなんじゃないかな。」と照れくさそうに笑った。息子と娘の趣味の話がそのあとにすぐ続き、3人とも安藤氏の3つの楽しみを手助けしてくれているというので、こう思った。「家族というのは4つめの楽しみじゃないんですか?」と、言うきっかけを逃した。
映像資料はこちらから   映像(1)


*「小箱ショップTAMATE屋」(北区中十条2-17-3)では直接安藤氏の作品に触れられます。
取材・文 都丸 道宣

 
安藤 和夫(あんどう・かずお)

○昭和26年2月22日生まれ
○東京都北区田端新町1-27-7-702
○TEL:03-3893-2864
○HPアドレス:http://www.andows.com/mdl/
(これまでの作品と展示の例など載ってます)