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鋳物の達人/深作操
鋳物の達人/深作操
 

「ドルショックはひどかった…」。深作さんは何度も噛みしめながら、そう語った。
「終わりだと思った…」。飲めないウィスキーにコーラを溶かして始めて飲んだ。
くたびれた仕事着のまま、眠れぬ夜をやり過ごしたこともある。

株式会社大栄製作所。
時代に翻弄され、紆余曲折を経た真鍮による鋳物製造。代表取締役社長・深作操さんの人生は、まさに「真鍮鋳物」の「技」とともに歩み続けている…。

■創業まで
北区は昭和町に訪ねた、大栄製作所の本社。迎えてくれた深作さんは、柔らかな暖かい印象の持ち主だった。1930年(昭和5年)生まれの73才。まずは、「ものづくり」に関する思い出を聞いてみる。「小さい時から時計を分解して組み立てたりとか、とにかくもの作りが大好きでした」。
戦後すぐまもない頃、工業学校の機械化を卒業したのち、外資系の輸出商社へ勤めていたが…。「結局は外資系。いつ引き払うか分からない…」28歳で結婚を機に、独立への道へと向かった。倒産した下請け工場を引き取って、荒川区で給排水器具の専門メーカーとして操業を始めた。3年後に本社を北区へ。さらに3年後父親の郷里である茨木県に、大量方式の生産工場を設立した。
輸出向け製品
【輸出向け製品】

深作さんは鋳物のイロハから機械加工、バフ・研磨、組み立て・加工まで、全ての技能を身につけた。当時の職人は、後ろから見て覚えろ!というタイプが多く、苦労をしたと言う。「中小企業の経営、とくに製造業は現場の技術をマスターしないと絶対にできません」。深作さんは、技能習得と同時に経営面での先見性も発揮。輸出商社の経験を生かして海外市場で大成功を納めたのだった。

そして、大栄製作所は、輸出貢献企業として昭和39年から昭和46年まで連続8年間、通商産業大臣より表彰されるまでにいたった。


【「真鍮」の鋳物製造】
鋳物とは、溶かした金属を型に溶かし込んで器物を製造することだ。海外に向けた製品製造を柱にしていた大栄製作所が扱う鋳物は、真鍮製によるものが多い。特に、給水器具の場合、国内では、主に砲金(青銅の一種)が使われるが、海外では真鍮製が一般的だったからだ。それが、真鍮を扱うようになった経営面でのいきさつ。そして、「真鍮の素材としての魅力」についても、深作さんは、目をキラキラさせながら語る。「真鍮は本当に面白い。鉄と違って温度や湿度に大きく影響を受ける繊細なもので…。また、色々な高度な加工も可能で、独創的な製品も作れる…」

真鍮製品1 真鍮製品2
【応接室に飾られる様々な真鍮製品】
 
■生き抜く知恵
それは突然のことだった。1971年(昭和46年)のドル・ショック。1ドル360円時代の終焉だ。海外市場で成功を収めた輸出産業である大栄製作所にとって、それはあまりにもショックが大きかった。「いつ会社をやめると言ってもおかしくない情況にまでなりました…。1ドルのレートが、一瞬にして半分以下になったのだから…信じられなかった…」深作さんは大規模リストラから、ありとあらゆる合理化を図ったが、為替差益の増大、そしてオイルショックによる国際経済環境の悪化、更にはバブルの崩壊が襲った…。

道はないのか…。必死に模索を続けた結果…。深作さんは、発想の大転換をした。

「モノづくり」の原点に戻って大量生産から「多品種少量生産」に切り替え、市場を国内に求めたのだ。時代の流れを読み、様々な注文に応えられる生産体制へ…。「多品種少量生産には個人のモノづくりの技能が欠かせません。鋳物産業では若者の離職率の高さが深刻で技能伝承ができないので撤退する企業が増えています。そこで定年退職者や高齢者の技能を積極的に活用して若者に継承できるよう工場内のラインを一新しました…」深作さんの決断は正しかった…。「機械化」よりも「職人」に頼らざるを得ない真鍮鋳物の「技」の継承を大切にする。そして、多品種生産であるが故のその都度その都度の「型作り」。それは、大変な手間と労力を伴ったが、社員一丸バツグンのチームワークでこなして行った。現在、大栄製作所の粗利は大量生産時代より上がっているという。「モノづくりの原点に立って工夫すれば町工場や中小企業の自立はできるのです」シンプルだが、深作さんの言葉は自信と説得力に溢れていた。

■最後に、若者に向けての言葉を頂戴してみた。
「どんな難しいものでも時間をかければ職人の技能で造ることはできますが、それでは中小企業は採算がとれない。技能を受け継ぎ、更に高めるためには『モノ』から学んで様々な工夫をすることが大事です。若い人には、それを期待しますね」真剣に「モノ」と向かい合いながら、「モノ」から学ぶということ。それこそが、「モノづくり」の原点なのかもしれない。

 
取材・文 栗山 宗大

 
深作 操 (ふかさく・みさお)

○職歴:株式会社大栄製作所会長
○昭和5年5月5日生まれ
○〒114‐0011 東京都北区昭和町2-15-15 
○TEL:03-3893-8771