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金物製作の達人/大沼正道
金物製作の達人/大沼正道
 

 

戸を開けると、いきなり大きな鉄の板がドーンと現れる。工場は15坪位の広さで、特別な機械などはない。周りを見渡してふと気づくと、無機質な鉄の板の間に金色の薔薇が!
何となく殺風景なこの工場に入って、初めてわくわくした。よく見ると脇には、個性的な鉄のオブジェも並んでいる。

「本当に何でもできるんですね!」味わい深い鉄のインテリアを受注生産してくれる鍛冶屋さん。バーナーとペンチを使い、火であぶっては金槌でたたく作業を繰り返して、形にしていく昔ながらのやりかたである。

「形あるものならば、何でも作るよ」という大沼さんは家の門扉、ランプシェードをはじめ時計、テーブル、扉、オブジェなどを独自のセンスで、一枚の鉄からできたとは思えないほど繊細に作り上げる。他にも、平和の塔の鐘や時計台モニュメントなど素晴らしい製作実績が多くある。

「堅い、重い、冷たい」というのが一般的な「鉄」のイメージだ。私たち人間の持つ「温かさ」とは全く反対のものになる。この両者を結びつける橋渡しとなった技術、それが大沼さんの手掛けてきた「鋳造」という技術分野なのだ。鉄の持つ堅さを柔らかさへ、冷たさを暖かみへと変える…。


■ 工芸との出会い、きっかけ
子供の頃の大沼さんは、食糧事情が悪かった為、パン屋になりたかったそうだ。中学時代、文京区に住む。校舎が充実していなかったこの頃、近所の都立工芸高校に教室を間借りすることもあった。「機械などがたくさん置いてあって、楽しそうだったわけ!」この学校に行きたい!ここで勉強したい。授業見学もし、ここに進学するに至った。金属科、機械科、木材科、印刷科、デザイン科と5種類の科目がある内、金属科を専攻。生徒は一つの科に40人しか募集しないのは今も変わらないらしい。その中から達人が生まれてくるのだ。今では7割が女性という。
卒業後、すぐに就職せず、2年間バイトをしながら、夜は日大建築科で学ぶ。指輪やペンダント等の小物も作ったが、やはり大きい物の方が魅力があって建築装飾の方に進んでいった。「建築のお手伝いが金属でできればな、と」今は、建築関係の装飾品が主な仕事となっている。

作品


■ 職歴
仲間(高校の同級生、芸大卒の彫刻家)と「工房ジーリオ」という会社を立ち上げる。「ゆりの花」という意味を持つこの名前はイタリア系アメリカ人の友人が命名。舞台関係の知り合いから、舞台小道具の依頼を受ける。遊びに行った時に、鎧などの小道具作製の手伝いをしたのが始まり。その後、仕事として作るようになった。北大路欣也さんや加賀まりこさん出演の「オンディーヌ」を手がけたことも。ある仕掛の為に一週間以上寝ないで、テストしては失敗し、また直してを繰り返し、幕開けギリギリに完成。OKが出た。
「今までの製作の中で一番感動したのはこの時でしたね」(作ったものがすぐ使われて、観客の目に触れる。心が動く。)くたびれて、楽屋の裏の細い通路で丸一日寝ていたね。15年ほど「工房ジーリオ」の仕事をした後、それぞれ独立する。1981年(昭和56年)に株式会社 大沼工芸を設立、それから20年、現在に至る。


■今の課題・懸案事
作品のカタログを見せていただいた。「かっこいい!うちにも作って欲しい」色んなデザインがあり、夢が広がってくる。家に帰るのが楽しみになりそうなくらい素敵な作品が多い!「一つずつしか作らないから、一点物です」しかし、こうも付け加える。「だから、生活がきついわけね」量産物だと、一つ考えると、50でも100でもできる。機械生産で、品質・納期の維持を最優先にという顧客のニーズに応え、最新設備と最先端の技術を駆使して「満足」を提供していく事を最大のテーマとする、というのが今のやり方。生活の為には量産物でお金を稼がなければいけない。「今は、そういう方向でもあるんだけども、それは違うんじゃないかなと思っているものだから…」(「仕事はあるけど、量産だけはしたくない」)ぽつりぽつりと語る大石さん。何だか寂しそう!!

今は家を購入する人は、時間もないし予算のこともあるから、どうしても既製品になってしまう。出来てしまっている物を買うのが一番無難。門扉などを、設計者と一緒になって考え「あたし、こういうのがいいわ」という家造りに夢を持つ人たちがだんだんといなくなってしまっている。人々の「満足」は変わっていってしまったのだ。

大沼さんの方向性とは、『好きな物が作れる』ということ。個人個人の『こんなの作りたいんだけどな』、『ここにこんな飾りを』という思いを形にしたい。現代の鋳物師の心を聞いた。仕事と自分のやりたいものがどんどん離れていってしまうのではないか、それが今の大沼さんの懸案事項。ものづくりに対するこだわりは「ないね。自分で納得すればいいという感覚だから」真っ直ぐ、なんてつまらない。ぐじゃぐじゃでも芯が通っていればいいのだ。何か変だけど、全体を見ればバランスがとれている。「全部が100点満点のように完璧じゃなくていいような気がします」茶道や華道の世界と通じる
ものがあるようだ。



■ これからどんな作品を作りたいか?
小物を作っていこうか。自分の気に入った物を作りたい。それが需要があればいいけどね。商売としてこういう物を作ればいい、というのではなく、好きだからこれを作るというものを。今は、「彫刻」を作りたい。作るにしても課題があるとありがたい。

何やら、ごそごそと取り出す。映画祭などで受賞記念のブロンズ像としてよく使われそうなトロフィーだ。個性的な形。試作品を企業に持っていき提案していく予定。「相手の方向とあまり懸け離れたものを作ってもね、怒られちゃうし」自分でデザインした作品をしげしげと眺めている。「でもこういうのを作るのが一番お好きなんですね」いたずらっ子のような表情で「まあね!」と答えるおちゃめな大沼さん。御年64歳を迎えたばかり。社長兼職人である大沼さんは、技能者としての香りを心地よく放つお方。この職人技を絶やすことなく伝承したいお一人である。

新作
【新作】
 

■代表的な作品
〜フェンス作り〜
フェンス作り
仕上げ前
【出来立てはザラザラ】
出来上がり
溶接
【これを加工して「仕上げ後」の
写真のように滑らかにしている】
設置!
【ヌーヴェルゴルフクラブ門扉】
ポスト
樹のオブジェ
【鈴木さんちにポスト】
【ホテル遊悠館『樹のオブジェ』】

■ 鋳物の持つ魅力と、その可能性
鉄などの金属素材を高温で液状に溶かし、型に流し込んで成形を行う。この鋳造という方法で製造される金属製品を「鋳物」と呼ぶ。プレスや削り出しなど、他の金属加工手段に比べても、鋳造ははるかに柔軟な成形が可能。それだけに鋳物は、他では真似の出来ない自由度の高さと、様々な用途に展開出来る可能性を有している。鉄という素材の魅力を、最も幅広く引き出す事の出来る成形手段。それが鋳物の最大の魅力なのだ。


■ 鋳物の歴史
鋳物は紀元前3500年、メソポタミアで始まったといわれ、日本では紀元前数百年の昔からつくられていたといわれる。 つまり鋳物は人類の歴史とともに歩んできたものであるわけだ。数千年の歴史をもつ「鋳物」が、なぜ工業技術が進歩した現代においてもその生命を保ち続けることができているのか?しかも昔も今も本質的には変わらない手法でつくられている。

取材・文 辰巳 まな


 
大沼 正道(おおぬま・まさみち)  

○株式会社 大沼工芸
○〒114-0003 東京都北区豊島6-4-14
○TEL:03(3919)8049/FAX:03(3911)9854