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  東京手描き友禅の達人/佐藤信男 東京手描き友禅の達人/佐藤信男  

 

■東京手描き友禅とは?
手描き友禅は江戸中期に宮崎友禅斎が創始した。
生地に青花(露草からとった染料)で下書きし、もち米を主成分とする糊を防染に使って緻密な模様を描く。また、すべての工程を手作業によって描き染めていく技法。
代表的なものには、京友禅と加賀友禅がある。
東京友禅の特徴は?
模様は風景を題材にしたものが多く、色彩は藍と白を基調にさっぱりしている。制作は、ほとんどの工程を一人で行い、あっさりとした粋な雰囲気が特徴。


■この道に入ったきっかけ?
高校卒業後、芸大への入学を希望。しかし、受験に失敗。丁度その頃、佐藤先生の家に出入りしていた呉服屋さんの紹介で、ある友禅の世界に足を踏み入れる。
新しいものへの挑戦心というのは、常にありましたね。実は、初めてこの仕事をしている人を見たのが、70歳くらいのおばあさんがトレース作業をしている風景だったのですね。
それを見て、「あぁ、凄いなぁ。」と純粋に思いました。
自分に出来ないことはない、とこの世界に入る一つの原動力になったのは確かです。
ただ、実際のところ「見る」と「する」とでは全く異なり、糊の性質から学ばなければ美しいトレースが仕上がらないものです。
それらを学ぶ過程が楽しかったですね。
もともと、芸大に入りたいと思っていたくらいだから、筆を使っての作業は苦にはなりませんでしたよ。
と、佐藤先生。
王子生まれの王子育ちである佐藤先生。当時、弟子(7割くらいは長野出身の方でした)というのは住み込み形式が当たり前であったが、佐藤先生は自宅から通っていた。


■東京手描き友禅の簡単な工程
まず、草稿から始まる。下描きが作品の出来の半分以上を左右するという、重要な作業ポイントである。
また、実際、この作業を進める時に佐藤先生は正座をしなければ下描きが出来ないという。
正座をすることで、持つ筆先と地に置いた紙の距離がぴたりと合うらしい。
だんだん腰が弱くなってきたから、椅子と机に切り替えたいけれど、なかなかどうしてこの距離とバランスと精神統一が正座の役目になっていると思うと、未だにここの作業には正座がいいのかもしれないなぁ。
と、丁度手がけている作品の草稿を見せながらおっしゃった。
草稿を描き上げた時点で、作品の70パーセントが決まる。
糸目糊で渋筒(しぶづつ:丈夫な和紙に柿の渋汁を含ませて筒状にしたもの)に先がねを付けて反物に構図を写しとる(下から光を当ててトレースする)。現在は、糸目糊(もち米を主成分とする糊)以外にも、ゴム糊というものが存在する。
(もち米を主成分とする糊なので、河川で洗い流しても環境面で害になることがない。)
ゴム糊を使用するときは、複合的な技法を用いる場合に使う。仕上がりという点では、糸目糊もゴム糊もほとんど大差はないが、やはり、制作工程でかなり用途が違ってくるらしい。
ゴム糊は薬品を使用しているので、繊細な細い線を描く際、とても描き易い。
草稿を元に、下絵を糸目糊で行う。この部分は刺繍で絞めて、ここは臈纈で奥行きを持たせよう。等、先につながる作業の考案を練るのも、ここでの重要な仕事。
下絵の線からはみ出さないように、色付けをして行く。
 
工程1 工程2
工程3 工程4


■井の中の蛙?
最初に学んだ場所の先生が、友禅の世界から離れるというのをきっかけに、展覧会や他の人の作品を意識的に見て回った。
その時感じたのが、「井の中の蛙」だったということ。
もっともっと多くのことを学びたくなり、林仙水氏に師事する。
このころから、手描き友禅の中にも臈纈染めを取り入れたり、と習得技術の範囲を広げる。
臈纈染めは、ほとんど独学に近いながらも、当時野球仲間と称する者がいて、その中に臈纈染めの達人がいたそうだ。
彼から基本的な事を教わり、その後、佐藤先生自身が必要とする箇所に臈纈染めを加えるという作品を生み出して行った。
佐藤先生が臈纈染めを使用する目的は、その模様の中に深みを持たせるときに用いる。
あくまで、友禅が主役であって、臈纈はそれを湧きだたせる脇役的なところはあります。
臈纈染めを習得することによって、友禅の幅が広がったのは確かですね。
と、佐藤先生。

そのような発案が、きっと伝統工芸の継承への一歩につながるのではないかと、私は思った。
伝統であるから、昔の古来の手法で伝え守って行くのも必要なことかもしれない。
しかし、人間の創造の源は無限大であるからこそ、新しい物への探求心を交えて、伝統が継承されるのではないだろうか。
と、佐藤先生の作業風景を見つめながら感じた。
【作業風景】
作業風景1 作業風景2 作業風景3
作業風景4 作業風景5 作業風景6


■佐藤先生にとって友禅とは?
きっかけは、確かに望んでいた道への方向転換を余儀なくされたことだけれど・・・
やはり、何と言ってもこの仕事をしていて「楽しい」と感じることですね。
世の中に一つしかない自分の作品が仕上がる。
そして、その作品を手にした人が、奇麗だと言い喜んでくれるその瞬間に出会ったとき、嬉しかったですね。
と、佐藤先生。
独立・初仕事は26歳のとき。その頃から、その気持ちは変わっていない。


■友禅のこれから先の展開は?
今現在、お弟子さんを持たない佐藤先生。
悲しいかな、着物の売れない時代になっていますからねぇ。仕方がないです。しかも、コンピュータの発達で二枚と同じ物は出来ない「手描き友禅」も、シルクスクリーンという技術で何枚も同じ図柄が瞬時にして出来上る時代ですから。
色作りにしてもそうです。
私たちは、色を重ね混ぜ合わせ、自分の欲しいと思う色にそれこそ火鉢の上で作ってきました。
でも、現在では想像もつかないでしょう。
それは仕方がないことですね。生活様式も大きく変化してきたし、たとえ、この世に1枚しかないあなただけの着物です。と言っても、普段着る機会がなければ、必要とはされません。
心を豊にする、という点では継承される余地はあるかもしれません。
ただ、その心を豊にするという価値観の違いがあるのも事実ですから。

最後に、手描き友禅の良さは、やはり手描きならではの「温かさ」があります。
だから、どういう形にしろ本物の技術が残っては行くでしょうね。
と、締めくくってくれた。

取材・文 下瀬 文


 
佐藤 信男(さとう・のぶお)

○職歴36年 王子在住
  林仙水氏、石塚茂久氏に師事
○東京都北区王子4-2-11
○Tel&Fax:03-3919-6361