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  氷華の達人/上野正高 氷華の達人/上野正高  

 
氷華 氷の中、重力の影響から逃れたかのように浮かぶ華……氷華。華の生命の最も美しいピークの一瞬が氷の中に閉じ込められている。その中ではまるで時間が止まっているような不思議な光景がある。
←【氷華】

この静まり返った時間を作りだしている方の一人、上野正高さんは、株式会社小野田商店の氷華製造担当で今年入社11年目を迎える。小野田商店の氷華の製造開始が10年前とのことなので、まさに氷華とともに歩んできた会社人生である。 上野さん


「氷華」というのは一般的な名称ではなく、小野田商店の商品名である。一般的な呼び名は「花氷(はなごおり)」で、日本には古くからある文化とのこと。あまり耳慣れない。ワープロでも一字ずつでないと変換できないところをみると、世間に定着していた、というものではないようだ。現在「氷華」はパーティーや誕生日プレゼント、結婚式やお祭り等のイベントなどの場で楽しまれている。さらに小野田商店では、お客さまの要望に合わせて、華だけではなく、ジーンズや果物などさまざまなものを閉じ込めている。だが相手にしているのは氷。これまで一筋縄ではいかなかったことも多かったという。

 氷は水から作られる。当たり前のことだが、一筋縄にはいかないといえる原因が、この水から氷にする過程にひそんでいる。いかに透明な氷をつくれるかは、そこにかかってくるのだ。家庭で氷を作るときに透明にならないのは何故か考えたことがあるだろうか。それにひとつひとつ答えていくことで、透明な氷に潜む不透明な部分に迫る。
 家庭の氷に白い部分があるのは、すべて「純水」ではない部分が集まっているところである。純水とは純粋な水のことで、耳で聞くと、「今の純粋?それとも純水?」という感じだ。純水ではない不純物とは空気(気泡)以外にも塩素やアルカリ成分、ミネラルなどである。どのような水にも白く見えてしまう「不純物」は含まれているのだという。それを取り除かなくてはならない。取り除くといっても何か薬品を加える、というわけではない。成分を加えれば氷の中に全て白く出てしまうからだ。どのような手順をそこに加えるかというと、聞けばそんなことかという感じだが、凍らせるスピードを遅くしてやればいいのだ。厚さで言うと、30cmの氷を約一週間かけて凍らせる。それでも不純物というものはまったく消えてなくなるわけではない。完全に消すことができない不純物は、コントロールするものとの事。この方法で凍らせていくと、下から透明な氷が徐々に出来ていき、一週間後、ついに完成した氷の塊の上部には「白」が集まっている。あとでそこだけ削ってしまえば、全面が透明なものができるというからくり。不純物を制するものが氷を制す。というと大げさだが、まさにそうなのである。さらに細かく言うと、機械で管理して凍らせているとはいえ、冬は凍るスピードが速いので、どうしても白がおおく出てきてしまう。
逆に言えば夏の氷のほうが透明にできやすい。一年を通して、氷の出荷の大半に及ぶのが夏だというのだから、たくさん出荷しなくてはいけないのに、たくさんつくれない矛盾が大変なところ。昭和初期よりさらにさかのぼると都内でも天然氷を売りに来る人々が見られたというが、ゆっくり長い時間がかけられて、凍っていった、という1つの証明がそこに見られる。

 そのように長い時間をかけて凍らされた氷というのは、見た目が透明なだけではなく、ゆっくり凍らされた分、とけるのも遅い。水の分子がきちんと整列している状態とのことで、生活の中で出くわしそうな場面でいうと、居酒屋やバーで飲み物を「みずっぽ〜い」と表現しているのをきいたことがあるだろうか?お酒を飲む方にはあるある、といった感があるかもしれないが、これは、「氷がとけやす〜い」という意味で、決して「みずっぽ〜い」飲み物のためではない、ということに初めて気づかされた。飲み物なんだから水っぽいのは当たり前だろう、などと決め込んでかかると思わぬしっぺ返しを食らうので注意してほしい。また、そのとけにくい氷の話を飲み屋等でするなら、「へ〜、へ〜」と現代の生活習慣を垣間見ること請け合いである。
そのように透明な氷はできる。花をそこに入れていくと、下から凍り付いてくるスピードが花のところで遅くなる。凹凸(おうとつ)によって凍りは歩みをゆるめるのだ。歩みがゆるくなれば、氷は透明度を増す、ということだったが、凹凸があるとへこんだ部分などに空気がたまり、やがて全て凍りついたときに、気泡の「白」が出てしまうため、凍りつきが花に差し掛かったときは少し手をかけてやらなくてはいけない。取材に当たった日に、ちょうど花に氷が二割か三割ほど差し掛かっていた。氷の塊を作る容器では凍るスピードを調整するよう水が対流していた。花は横に寝かされて並んでいる。「ちょっとこれは気泡になっちゃうな」と優しげに花の茎や花弁をはじいたとき、小さな空気の粒がぷくぷくと水面ではじけた。一週間という時間や、氷と中のものとをじっと見守っている姿が頭に思い浮かんだ。
花を凍らせることから始まったこの「氷華」。「水に融けないものなら何でもOK」という触れ込みで受けた注文は様々。「お客様はどのように楽しんでいるかはわかりません。」と見せてくれた写真たち。以下がその一部。

作品1 作品2
作品3 作品4

 お客さんにどう楽しんでもらえるのか、から始まったまっさらで透明な思いは、何で「白」が出てくる?シャツは人が着ているようにしわをつけようか?祭りの風景はどのように並べるか?金魚は泳ぐように見える?果物は?ビー玉は?という試行錯誤を一日、また一日、と経て、最上部に雲のような「白」の天井を押し上げ、生き生きと氷の中に結実する。1週間の完成を待ち、融けるまでの4時間は、風に形を変えられ、強い光に溝を深め、はじかれた光は太くなり細くなり、あるいは交わり、最後に水と無機物。元の姿に還る。線香花火のはかなさを知る日本人ならこの光が届く気がした。
 

取材・文 都丸 道宣


 
上野 正高(うえの・まさたか)

○昭和40年6月1日生まれ
○株式会社小野田商店 
○職歴93年入社 役職氷華製造担当
○本 社 東京都北区西ヶ原4-61-12
○TEL:03-3910-3108/FAX:03-3915-2102
○HPアドレス:http://www.onoda.co.jp/