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一つ一つ心を込めて、美味しいものしか作らない 食欲を掻き立てるパンの香りと暖色に彩られた店内。昼時を過ぎているにもかかわらず、込み合っている。その中には、店員さんと親しげに話す常連らしいお客さんもいた。創業明治22年、東京北区王子にある老舗パン屋さん「明治堂」のBOSS(名刺にもそう書いてある)中山和弘さんを訪ねた。 ■始まり 「明治堂」は木村屋から独立した初代店主が白山に開店したのが始まり。その後、王子に移り現在に至る。創業した明治22年(1889年)は、明治憲法発布、フランスではパリ万国博覧会、エッフェル塔完成、ムーランルージュ開店の年。これを聞いただけでも歴史が感じられる。 BOSS中山さんは4代目。昭和26年12月12日に生を受け、当然生まれも育ちも王子。これまた当然学校を卒業後、家業を継いだのかと思えばそうではない。大学卒業後、広告代理店に就職した。その後某有名店で修業を積み明治堂を継ぐ。 「今思えば、他の職業を経験したからこそ、パン屋以外の職にわき目も振らずにやってこれたのだと思います。」 ■パン作りの工程 1. 材料の計量 前日に翌日分を量っておく。 2. 生地のミキシング(こねあげ) ここでいい生地が出来ないと、おいしいパンにはならない。なぜなら、パン作りは工程を経るごとに減点してしまうことが多いから。 3. 発酵 イースト菌が炭酸ガスを出し、膨らんで行く。 4. 成形 量をはかり、形を作る 5. ホイロに入れる 焼く前の最終発酵。出来上がりの8割ぐらいの大きさまで発酵させる。 6. 釜焼き その日の仕込み方や成形によって生じる微妙な変化は、見た目と触った感触で判断しなければならない。 ミキシングで分量を間違えていたり、釜焼きで焦がしてしまえばそれで終わりだが、すべての工程に注意を払わなければならないのはいうまでもない。「パンは生き物。どこまで発酵させるかを見極めることが、トータルで言えば重要です。」他にも、温度と湿度の管理も大切。東京は一年を通じて、約40度の気温差がある。エアコンや窓の開け閉めでの空調管理。仕込みで使う水は氷を入れて冷やす時期もある。「生き物」はやはり繊細である。 ■スタッフ全員の心がけ 明治堂には現在20名のスタッフがいる。BOSS中山さんを中心に、チームとして掲げているキャッチコピーは、「一つ一つに心を込めて、おいしいものしか作らない」である。 ◎「心を込める、愛情を込めて作るということは、100%の注意力を出し切ること。些細なこともおろそかにしない。こだわるというか、注意力を持って最良の状態を作って行くこと。」 ◎ 「すべてのサービスで楽しんでいただけるお店でありたい。どういう陳列、プライスカード、包装、店構え、店内の音楽、接客時の笑顔、すべてに注意しなければならない。家にいて、明治堂に行こうと思い、お店に来て、買って帰って食べる。その間、ずっと楽しめるお店でありたい。同業のパン屋さんだけがライバルではない。飲食店すべてがライバルなので、そういう点からもサービスを大事にしなければならない。」 ◎ 「自分がどんなパンを作りたいか、どのように売りたいかを考えることは、自分を表現することである。明治堂は、自分の個性、創造性を発揮できる場である。」 ■人気商品 明治堂には一週間を通じて160種類ものパンが並ぶ。その中のTOP3は? 1位 クロワッサン 2位 メープルシロップ(デェ二ッシュ) 3位 あんパン8種類 あましょく
最近のお勧め品は自家製天然酵母パン。工場で作るイーストを使うと発酵が早い。しかし自家製天然酵母を使うと、長いもので10時間もかかるという。 現在、りんご、ぶどう、いちご、ライ麦の4種類の自家製天然酵母パンがある。 ■パン作りとは 「パンという食べ物を作ることは、人間にとって根本的な仕事だと思っています。お百姓さんがお米を作る、お母さんが食事を作るのと同じで、「食」を支えているという喜びと誇りが持てる仕事です。」と語る中山さん。スタッフの教育とご自身への戒めもあるのか、お店には「BOSSの10か条」がある。最後の10か条目には、こう書かれていた。 「BOSSが今まで生きてきた中で一番幸せなのは、胸を張れるスバラシイパンが焼けた時である。」と。 おいしいパン屋さん。笑顔あふれるパン屋さん。個性を大切にするパン屋さん。パン作りの中で磨かれた技と感性を、商品やサービスに発揮して行くパン屋さん。明治堂スタッフ総勢20名は、これからも最高のおもてなしで迎えてくれるに違いない。 |
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取材・文 三島 浩 |
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