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<<< まちを元気にする達人たちFILE064 片桐祐司>>>
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東京北区。本郷通りからをはずれ、「ゲーテの小径」なる緩やかな坂道を下り、さらに路地へ。医療用器材製造販売の株式会社第一器業の片桐祐司社長を訪ねた。 ■結婚 名刺を持参しなかった私との挨拶は程々に、着席すると片桐社長は穏やかな口調で、会社の歴史を話し始めてくれた。 『創立は昭和47年なので、えー、30数年前になります。』 自社のパンフレットに目をやり話す。 伺っていて惹かれたことがある。 『18年前に家内と結婚し、この会社を手伝うようになりました。』 私の友人に結婚して何年と尋ねると『今34で、結婚したのが24だから、えー、・・・』 と、照れもあるのだろうが、そう答える者が多い。社長の口からは、『18年前に結婚』と澱みなく聞くことができた。 ■家族 会社創立後5年半、仕事が軌道に乗り始めた矢先に、現専務で社長夫人、片桐裕子さんの父親である先代社長が亡くなられる。残された家族は、裕子専務と母親と妹2人。会社は存続の危機に立たされる。専務は当時、短大を卒業したばかりの20歳のOL。妹は学生。その上、下請け会社や仕入れ先、様々なところが手のひらを返す。先代が床に臥している病院のロビーでお客様の取り合いになったこともあるそうだ。専務はあまりの悔しさに駆られ、「やってみせます。」と周囲に断言した。専務が営業、母親と妹は内部を支えるという形で再出発を果たす。そんな苦難を乗り越える中、社長と結婚。現在お子さんが2人。 席に着いた私にお茶を出してくれたのは娘さん。小学生の息子さんが、ただいまと元気良く帰ってきて、快活に挨拶をしてくれた。 ■信頼 先代の急逝後の苦難を乗り越えられたのは、お客様の『続けるならバックアップしましょう』という力添えがあったからだという。これは先代が築いた信頼。『こんなものが欲しかった』の声に応え続けてきた賜物なのだろう。 創業当時からの「こんなものがほしかった」に素早く対応し、お客様にお届けすると言う理念は、家族の絆と共にはっきりと受け継がれている。 ■仕事 第一器業は医療用器材の製造販売を主に行ってきた。 最も難しい点は? 『検査用消耗品は薄利多売。本当に利益が少ないです。それと医療の現場では、小さなミスも許されない。100個作ると1個欠陥がある、それではお客様にお届けできません。』 安全性については当然のことであるが、昨今のニュースで慣らされている私には、温かくしみ込んでくる心がけだった。 では魅力は? 『医療にはバブルがない。世界に病がある限り仕事がある。堅実にやっていけば、堅実な利益が得られる。逃げない仕事があるので、次の仕事を積み重ねて行くことが出来る。』 今後の夢は?と聞く前に社長は、滑らかになって来た舌で、話しを続けた。 ■成長 現在、第一器業では医療用器材の他に、我々の生活にも身近な商品を手がけている。化粧水と食用油検査試薬が挙げられる。 化粧水はやはり医療の現場からの声だった。看護婦さんの手荒れ予防。ひび割れ部位での雑菌の繁殖を防ぎ院内感染を起こさない為に開発された。そこいらのハンドクリームとはわけが違う。是非お試しあれ。 食用油検査試薬は、某ファーストフード店からの要望だった。油はご存知の通り、古いものを使うと、匂いが気になったり、胸やけを起こすことがある。では古いものと新しいものの境目は?従来にも油の酸化を見る試薬はあった。しかし『油の劣化は酸化だけではない。』3年間チキンを揚げ続けたデータを元に試薬品を完成。その名もシグナルポイント(警告点)。某ファーストフード店は、油の消費量を30%減、より安全でおいしい商品の提供を可能にした。16年前に建てられた研究所では、こうした製品の研究、開発が行われている。 着実に成長する中で、ある人物と出会うこととなる。 ■邂逅 東京大学大学院工学研究科の石原一彦教授との出会いが、会社に新しい動きを起こす。研究所設立以来、多くの研究者に関わる。そんな中、『大企業は利益の少ない研究はさせてくれない』と洩らす大企業の研究者の紹介で教授と出会う。「教授の専門であるナノバイオテクノロジーをわが社の技術と融合できないか・・・」ここから話は急進する。 産学協同が唱われて久しいにも拘らず、遅々として進んでいない。しかし、政府は、国立研究所や政策実施機関を官僚機構本体から切り離す独立行政法人化を進め始める。また経済産業省からは地域技術開発事業の補助対象に選ばれるなどの追い風を受け、新会社AIバイオチップスを石原教授と共に設立。大学発ベンチャーとしてバイオ産業に名乗りを上げた。 ■未来 今このAIバイオチップス社で最も力を注いでるのは、高集積バイオチップの製品化だ。高集積バイオチップスの専門的な説明は省く。分かり易く言うと、『最終診断は医者ですが、自宅にいながらにして、複数項目の健康状態が診断できるスクリーニングチップ』の事。妊娠検査薬では『妊娠』しか調べられない。しかしこのチップは、一滴の血液を垂らすだけで何種類もの病気の疑いを知ることが出来るというのだ。製品化すると臨床検査市場は、一気に5兆円に拡大するとも言われている。 社長は熱く語る。『AIバイオチップス社で売るのはソフトです。我々の技術は、モノと生体の接触を可能にする表面処理技術。この技術をバイオ産業のソフト(OS)として、世界標準にすることを目指しています。』 ■飛翔 最後に写真を撮らせて頂いた。奥から出てきた娘さんにデジカメの映像を見せると、『このあいだの写真よりいいんじゃない?』と。 現在第一器業とAIバイオチップスは同じ社屋。家族の絆、お客様の『欲しいものをかたちに』、バイオ産業のOSとなる事。『今は寝ても覚めても仕事です。』と笑う。 家族愛、人との触れ合い、夢を大切にする片桐社長は、北区から世界へ羽ばたく。北区から第二のビルゲイツが生まれるかもしれない。 |
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取材・文 三島 浩 |
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