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  製靴の達人/菊地武男 製靴の達人/菊地武男  

 

王子駅到着後地図を片手に、文字通り”駆けずり回って”迷ってようやく辿り着いた。
大通りから外れた閑静な裏道沿いに、ダイナス製靴株式会社はあった。
出迎えてくれたのは、三つ揃えのスーツに身を包んだ社長こと菊地武男さんと室長の印南(いんなみ)淳さん。
笑顔が私の心を和ませてくれ、早速インタビューに移らせてもらった。


外観1 外観2 外観3


■菊地武男さんの靴職人への道のり
菊地先生が靴職人になると決心するまでには、様々な要因がある。
戦前は、物を作る会社に勤めていたが戦後その仕事が不振に。
次第にインフレが高進。家族を養って行くために、ある知人の紹介で靴を売る仕事に就く。
所謂、ブローカーである。
戦後の物資不足のなか、米軍や軍から放出された革や一度使用されたものを加工して売っていたという。
昭和22年から28年頃まで続ける。25年に統制の廃止があり、闇市の存在が消える。それを境に、上野に店を出し独立を図った。
しかし、昭和34年販売不振に。ここで、フィッティングの難しさと大切さを痛感する。また、修理を頼むお客様に対し、素人故に満足な対応が出来なかった。
このことが、後の菊地先生に「足の健康」「歩きやすさ」「靴の正しい在り方」の永遠のテーマを掲げるきっかけとなる。

昭和43年。本格的な研究に入る。
日本靴総合研究会の会員になり、医学博士の中尾先生の元で、春と夏に一週間、解剖学と人間工学研修を十年間受ける。
その過程に於て、「足とは何ぞや?」「靴はどうやって作られるべきか?」に焦点を置き始める。
それまでの靴作り、もしくは、靴職人に在り方は・・・
弟子が、師匠の靴作りの技を歳月をかけて学び取り、盗み取るのが主流であった。
しかし、そこには「医学」が取り込まれていることはなかった。


■「医」の必要性を感じたのは?
菊地先生には三人の娘さんがいる。靴の販売をしている当時、娘さん達には残った靴を履かせていたという。
その靴が原因で、足の障害を抱えることに。代表的なのは、外反母趾。
また、実際お客様の中でも最も多い足の障害の一つであることに気がつく。
では、お客様に喜ばれる靴は何であろうか?と、自問をする。
人体というのは、その環境によって順応していく。
さすれば、自分に合った靴を履くことによって、足の障害の悪化を防ぐばかりか、治る方向へ向かわすことも可能になる。
足の障害が少しでも緩和され、お客様に喜ばれる靴作り。それが、菊地先生が辿り着いた「靴はどうやって作られるべきか?」の答えであった。


足の骨の模型 ダイナス製品
【足の骨の模型】 【ダイナス製品】

■足は・・・足こそが第2の心臓
股関節から足首まで骨は、大腿骨、膝蓋骨、頚骨、ひ骨の四つ。
足には、二つの種子骨を含め足には二十八個の骨がある。
それらを足すと三十二個。
靴に関係する骨を数えると・・・背骨も含め頚椎七つ、胸椎十二個、腰椎五つ、整骨・尾骨二十六個。
左右の足の骨と骨盤を全て足すと、九十一個の骨が靴に関係している。
足がいいと、腰痛も治ると言われるほど。
それ故に、菊地先生は足の大切さ、靴そのものの重要さを解いている。


■日本人と米国人の靴に対する考え方との相違に驚嘆
戦後、最も驚いたことの一つに・・・。
米軍には、靴のサイズが24センチから28センチまであり、それに加えてA〜Fまでの幅のサイズが6通りも存在した。
日本には幅のサイズは存在しなかった。
つまり、「日本は靴に足を合わせる」という考え方に対し、「米国は足に靴を合わせる」という全く逆の考え方が解剖学的に存在した。
靴文化を背景にした西洋と下駄や草履文化を背景にした日本とは、靴に対する考え方や発想の相違があって当然ではある。
だからこそ、菊地先生は「日本人に合った靴作り」を目指している。


■靴職人になってよかったと思えることは?
「世のためになることじゃないですかねぇ。」と、眼鏡の奥の二つの目が細めながらおっしゃった。
「一人ひとりのお客様に満足して喜んで貰える。ひいては、自分も幸せになれる瞬間ですね。」と、現在は現場を退いている菊地先生は昔を懐かしむ様におっしゃった。


■最後に・・・菊池先生の信念は?
足に合わない靴を無理に履き続けると、健康上さまざまな影響が全身に及びます。
靴に起因する障害を軽減し、顔を輝かせ、自信に満ち、さっそうと歩く姿を取り戻す。
これが、靴作り40年のテーマです。


●私も体験!足の診断と計測
印南さんのすばやい手さばきに、見とれている間に私の足型が・・・

体験1 体験2 体験3
【左足:24.0のE 右足:24.0のEE】


●靴作りの工程
足の診断と計測:「フィッター」と呼ばれる靴合わせの専門家が、足を病理学的に診断し、30項目について精密に計測。
靴型:我が国には数少ないと言われている技術者が計測データに基づき、顧客の足の骨格に合わせて木型を削りだします。靴型技術者には、約20年の経験を要し、美術解剖学から、病理学に精通している必要があります。
靴の作成:顧客の好みであるデザイン、カラーに合わせてベテランのデザイナー、裁断師、製甲師、底付師、仕上師が1足の靴の為に入念に各工程を進めます。
靴合わせ:約30日間を要して、1足の靴が出来あがります。靴を履いて十分に検討、確認をして再度靴合わせをします。
器材1 器材2 器材3

 

取材・文 下瀬 文


 

菊地 武男(きくち・たけお)

○1924年10月10日生まれ
○ダイナス製靴株式会社 社長
○職歴:1949年、菊地商店(ダイナス製靴の前身)を創業。
      足と靴の研究を重ね、人間工学・美術解剖学に基づいた靴作りを信条とし、
      1984年から木型付きフルオーダーメードシューズを手がける。
      日本のシューフィッター第1号。
○〒114-0022 東京都北区王子本町1-5-13
○TEL:03-3908-1754
○HPアドレス:http://www.dinus.co.jp/
○E-mail:dinus@dinus.co.jp