●達人TOP●まちを元気にする達人への思い●達人一覧表●達人エントリー●達人のStaff●達人の輪

<<< まちを元気にする達人たちFILE071 浅井盛征>>>
 
彫金の達人/浅井盛征
彫金の達人/浅井盛征  

 

■彫金との出会い
「うーん。出会いねぇ…。」と、タバコを持った右手を頬に当てて少しばかり間を置いて。
「私が大学生の時、実は、学生運動が盛んでねぇ。世の中の流れに流されて生きて行くのは嫌だな、という意識があった。自分で生きていける。24時間自分の好き勝手に使える、というのが魅力だった。そして、学生の時に、知りあいの彫金家の所を訪ねたとき、固い金属を彫っているのを目にした。凄いなぁ。こんな職業があるのか、と思ってね。その時が、この道に入る決定的瞬間だったかなぁ。」と、浅井先生。
何かを作りだすことが、もともと好きだったからこそこの道に入ったのも事実。


■この仕事の難しい所と魅力
何を創っても、どんなに試行錯誤を重ねても、一度として満足の行った作品は作り出せない点。
満足しないから、次への創作意欲が沸くんじゃないかなぁ。
それが、この彫金の魅力と難しさでもあるのかもしれないなぁ。
常に勉強。例えば、構図を練る段階でも、今までスケッチなんてしたことはない。だけど、必要に迫られれば自己流でも勉強をする。銀か銅のどちらかを象嵌するといっても、実際やってみないと全体のバランスの善し悪しが見えない。それは、経験だけど、失敗を繰り返してどちらがいいかわかるもの。
でも、答えは出せないだろうね。行き着くところまで行き着いて、満足した作品を作り出すには人生は短すぎるね。
と、言った浅井先生は、常に挑戦者であることを印象付けた。


■作品が出来上るまでの簡単な手順
ピッチボールと呼ばれる台の上に松やにが載せられている。
その松やにをバーナーで温め、柔らかくした状態で彫る金属の板を載せる。
彫りと線象嵌(ぞうがん)の手法を実演してくれた。
彫りは、先の形が異なる鉄の棒と金づちを使って打ち出す。
彫り方には片切彫り・毛彫りなどの技法がある。
線象嵌は、彫ったその溝部分に、はがねを埋め込むこと。
なます、と言って、銀をバーナーで曲がるほど柔らかくして打ち込む。

作業工程1 作業工程2 作業工程3
(1) (2) (3)
作業工程4 作業工程5
(4) (5)


また、象嵌では伝統的な色地金の赤銅(しゃくどう)や四分一(しぶいち)などを組み合わせる。平象嵌、線象嵌など日本の伝統的金工テクニックによって様々な作品が出来上る。

 
作品1 作品2
作品3 作品4


■伝統工芸の継承について
現実は無くなりつつある。実際、この職業で生計を立てるのが困難だからなぁ。やっぱり、若い人が入って来れないのが現状だね。
と、浅井先生。でもね・・・
「これらが必要とされる時代が、叉、やってくるよ。人間の作ったもの、人間の智恵によって出来上ったものだからこそ、たとえ、無くなったとしても必ず復活すると思うよ。」と、作品を並べながら話してくれた。
今、この現代ではすたれつつあるのが現状であるならば。
何故、今は必要とされないのか?
それは、きっと価値観の違いなのではないかな。と、浅井先生は言った。
つまり、これらの作品を見ても理解する人、もしくは、理解出来る人がいなくなった。
しかし、反面、昔の人々が理解したかというと、そういう事ではない。
庶民には全く接点のない世界の作品であった。昔も、ごく一部の人々が、文化として理解していたに過ぎない。
戦後の財閥崩壊によって、それらを庇護する人々が急激に減って行った。
それが、伝統工芸を衰退に向かわせている要因であるのは、とても皮肉な事のように感じた。


■作品について
用途が全てでは無い。と、浅井先生。
これらの作品は、確かに「使う」目的で作られてはいるけれど、「鑑賞」する事が目的でもいいと思う。
観る事によって、心が豊になる。それが作品が果たす役割ではないかなぁ。
でも、人の心を豊にさせるような作品を創り出せているとは思えないけれどね。まだまだ勉強が必要だな。と、浅井先生の作品で既に心豊になっている私に向かって言った。

最後に、印象的な言葉があった。
「同じ技術を学んでも、全く異なった作品を作り上げる。それは、その人の心である。だからこそ、表面的なものに執着するのではなく、内面的なものをもっと大切にして行きたい。それこそが、『技』を残して行く上で必要な事。」
作品5
【記念にと、先生の作品を頂きました。】

取材・文 下瀬 文


 

浅井 盛征(あさい・せいせい)

○〒114-0024 東京都北区西ヶ原1-58-14
○TEL:03-3917-2547

【略歴】
昭和20年生まれ
   43年 法政大学卒業 在学中より彫金家 桂盛行氏に師事
   45年 伝統工芸新作展入選以後出品
   46年 伝統工芸金工展入選以後出品
   53年 伝統工芸日本金工展受賞以後四回受賞
   60年 伝統工芸日本金工展鑑審査員以後歴任
   61年 伝統工芸新作展鑑審査員以後歴任
   63年 伝統工芸新作展受賞・日本伝統工芸展鑑査員
現在 日本工芸会正会員・同金工部会評議員