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  根付けの達人/中条清二  

 

「プラスティック工芸はもうやっていません。二月で会社もやめるんです」
昔は賑やかな商店街だったという、北区は王子本町3丁目。今では、ほとんど住宅街と様変わりし、人通りも少なく寂しい風が吹いている。更に二つの道に挟まれ、三角州の様な孤島の片隅に、中条プラスティック工芸はあった。


■ 灯し続けたい、達人の技
話の始めが、現役引退というお言葉に、思わず次の質問を躊躇する。が、そんな内容にしては、お二人の表情は驚くほど明るい。
「これからは楽しみながら、やっと自分の好きなものを作れるんですよ!」
それを聞いた途端に、そうか、良かった!と納得し、また嬉しく感じた。
今まで多くの達人と出会ってきたが、好きな事を生業とする上での辛さ、人々の、また自らの夢を形にできる「モノ造りの喜び」というのが、現実の生活と離れてゆく歯がゆさ、そんな達人の思いを少なからず目の当たりにしてきた。その意味では、今まさに職人としてのあるべき時間を過ごされようとしているのではなかろうか。

御年73を迎える、中条清二さんと奥さまの弘子さん。昭和40年の創業以来、ずっと二人三脚でこの中条プラスティック工芸を営んできた。この地に移り住んでもう50年になる。そのお二人の歴史を紐解いた。
「こんなものを作っているんです」と、綺麗に並べられた作品を見せていただいた。
 
作品集
【様々な名札や根付け】
< 製作工程>
表に出ると、工場入り口の壁にあるガラスの掲示板には、看板や表札の作品集が所狭しと飾ってある。よく見ると、その看板の中に「尺八教授 中條詠清」とあった。
なんと、達人は、尺八・民謡・三味線に秀でておられ、教室もやっておられるという。
一体どれが達人の本当の顔なのか。


■ 多才な達人の生き様
子供の頃の夢は、何としても語ってくださらない。ただ「根性は小さかったんですよ」と豪快に笑うのみ。奥さまの話によると、小さい時からやはり手先の器用な人で、彫刻などをされる一方、音楽好きでもあった。16、7歳のころ、家に尺八が1本残っていたのを見つけだし、習いに行って23歳で名取りに。それから昭和40年ころまで尺八一本で生業とする。夜は尺八、新宿は老舗料亭「いなかや」の芸能部で六時から深夜まで稼ぎ、昼は板橋の知り合いの機械工場に足を運ぶ。たまたま遊びに行ったときに、工場を覗き、その珍しさ、おもしろさに惹かれてしまったのだ。こちらは正式に習ったのではなく、遊びに行ってお手伝いをしながら、技を盗んだ。機械に触らずとも、見るだけでどうしたら出来るのかが分かったというのだ。そのころから達人の目が養われていたのだろう。
海のものでも山のものでもない。ただ夢中になった。
「それでね、機械を買っちゃったんですよ。もちろん中古ですけど」


■ 職人の技は見て盗め
そんな中条さんの苦労したことはというと、カッター(彫刻の針)の研ぎ方。それだけは、さすがに分からなかった。友達が来てくれた。といっても、教わるのは嫌な性分だから、又盗む。そうして技を磨いていき、生業の一つとしていった。上り坂の時代は、都営バスの名札など全て手がけたという。奥さまの弘子さんも、やはり仕事をしていく中で技術を覚えた。言ってみれば中条さんの技を継承された唯一のお方。「難しくて大変だが、楽しみながらできる。こんな素晴らしいものはない」と新しい仕事に前向きに取り組んだ。
普段は優しい夫の顔と、教えるときは鬼のように厳しい職人の顔の二つと向き合う。3度と同じことは言わなかったそうだ。今はそんなことを言うとすぐに辞めてしまう人が多い。
「人に教えるというのは、一から教えるという大変なこと。自分で作っている方が楽しいです。知りたきゃ盗め!」という中条さん。
技修得の秘訣などない。「親方の技は盗むもの」なのだ。


■ 中条さんのこれから
昨年までは彫刻一本で仕事をされていた。2月で会社を閉じた後は、趣味として名札や根付け作りを続けていくそうだ。口コミで頼まれたら作る、というスタンス。その他、「教えるのは…」と言いつつも、教室を開く予定だ。何かやっている方が、生活に張りがあっていいですから、とお二人。現在は、手縫いの革製品の小巾着袋と根付けのセットを作製中。その他、いらない半纏や古い着物をリサイクルし、小巾着にして根付けと合わせたり、アイディア斬新。街中をよく散歩されるという中条さんは、あちらこちらを見て歩き、アイディアを拾う。これはおもしろい、と思ったらすぐに取り入れて自分流の作品に作り上げる。王子駅前などでブースを開くことも考えているという。「自分の字やイラストがそのまま彫れる!」となれば、必ず若者の目に止まるはず!
人に喜ばれて使ってもらえる、世の中にたった一つしかないものを作る。
その創作活動は終わることはない。
新作
【新作】

<根付け>

取材・文 辰巳 まな


 
中条 清二(なかじょう・せいじ)
   
○中条プラスティック工芸      
○東京都北区王子本町3-11-4 
○TEL:03(3909)7929
中条さん